大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)616号 判決 1958年7月29日

岐阜県恵那郡岩村町飯羽間一三七〇番地

上告人

伊藤繁市

中津川市堅清水町

被上告人

中津川税務署長

大蔵事務官

寺田保太郎

右当事者間の昭和二九年度所得額無申告に対する決定処分取消請求事件について、名古屋高等裁判所が昭和三二年四月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由について。

論旨はるる説明するけれども、要するに、被上告人が上告人の所得として不申告決定をした農業所得はその妹はるゑの所得であつて上告人の所得ではない旨を主張し、この点に関する原判示を非難するのである。

しかし、何人の所得に帰するかは、何人が主としてそのために勤労したかの問題ではなく、何人の収支計算の下において行われたかの問題である。この点について原判決の確定するところによれば、本件農業所得は上告人がその生計を主宰する上告人方家族構成員の生計を支える重要なものであつて、上告人が生計の主宰者としての責任上、上告人方の農業経営を主宰していたものと認められるというのである。

その他原判決の認定した事実に基けば、原判決が本件農業所得を上告人の所得である旨を判示したのは相当であつて論旨は理由がない趣旨は原判決に法令の表示がなく、また、原判決は上告人の主張に対して答えていないというのであるが、原判決は上告人の請求の当否を判示するについて法令の表示を必要としなかつたのであり、また、結論に関係のない上告人の主張に対し逐一答えなかつたからといつて、それだけで原判決を違法とすることはできない。論旨はまた、民法所得税法の条文を列記して原判決の法令違背を主張するのであるが、本件農業所得を上告人の所得と認めなかつたからといつて所論の法令に反するものではない。論旨は違憲を主張するけれども、本訴の争点は所得税法上の所得の帰属の問題であつて所論は違憲に名を籍りるに過ぎない。なお、国税庁長官通達に反する旨を主張するのであるが、本件不申告決定は右通達に反しないのみならず通達は法令ではないから通達違反の主張は、原判決を攻撃する理由にはならない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島保 裁判官 垂水克己)

○昭和三二年(オ)第六一六号

上告人 伊藤繁市

被上告人 中津川税務署長

上告人の上告理由

一、まえがき

「無軌道に脱線なし」という言葉があるが、本件につきなされた原判決は訴訟手続の完結を促進する無理から、法規より浮上つた判決の一言に尽きるので以下要点を指摘し順次上告理由に及ぶこととする。

第一、法令の表示が全然ないことである。

ただ発見し得るのは甲二号証(乙第一号証の一)に被上告人の再調査棄却の理由として所得税法第三条の二による旨の記載と被上告人の陳述(第三準備書面四葉裏面二行目)に民法第八七七条(同五葉裏面七行目)に基本通達一五九による旨記載されているが、前記三事項すら殆ど無視又は曲解されている。

本件は行政処分の適否の争であつてすべて結論または主張について、または職権の範囲について法的根拠の認められないのは不当であつて、この点につき上告人の控訴審における準備書面(三十二年三月十七日提出)の主張も全然無視されている。

第二、控訴審が援用した上告人の原審における主張の過半が何等肯定、否定もなく黙殺されたことである。即ち判決事実(一審判決文三葉表二行目)に

原告はしかし右農業所得十万二百八十一円はすべて原告の妹訴外伊藤はるゑに帰属するものであつて、原告に帰属するものではないと述べた。

と記述してあるが、前記について上告人は第二準備書面において(三葉表十一行目以降)

農業所得の帰属については民法第八九条及同三二四条により、たとひ単に労務に従事する場合でも、その従事した度合に応じて、各家族が収益を取得するとみるべきである。(大意)

と述べ、右の前後九葉にわたつて(いずれも大意)憲法による人権の保証(三葉表)を重視し、所得税法第一条同第三条の二、同第十一条の二の条文を掲げ(四葉表裏)、前記第十一条の二に関する通達三二四、一五八、一五九について(五葉裏面から九葉裏面)に経営の内容その通達との関連につき詳細陳述している。

また判決文(第六葉裏面七行目以下)原告の主張として

原告方における農業の実状を調査しなかつたことは通達一五八、一五九に違反する。(大意)

と述べたと記述されているが、原告は第四準備書面(一葉裏面十二行目以下)において

政府の調査したる所に基いて決定するとの所得税法第四十四条及第三条の二に違背する。

と述べているのであつて、かくの如く上告人の主張は取上げられていない。

第三、判決理由の主体ともなるべき農業経営の実体が無視された判決である。

たとえば判決理由に(一審判決書第九葉表一行目)

農業経営の特殊性からみて、労働力の主たる提供者なでければならないとする原告の主張は独自の見解であつて採用できない。と排斥したが、独自の見解とは何を差していうのか、上告人は被上告人も指摘した如く(準備書面(第三)第二葉表四行目)昭和十七年まで農業に専従していたのであり、現在も勤務の余暇に年間三十日位農業に従事しているのであり、第二準備書面(第四葉裏一行目以下)第四準備書面(第三葉裏第四葉表)等にそれぞれ例証を掲げて説明し、なお甲第十五号証の次に参考資料として農業統計書類、高校教官農業経営学担任貝川氏の調査資料等を添付したのに、有力な反証も計数上の資料もなく、社会的にみて農業経営についての学識経験者とも認められない裁判官が独自の判断で上告人の主張を排除したのは不当である。

農業経営の主体が労働力であることは専門家の意見を求めるまでもなく、即ち労力だに充分であれば耕地はなくても山野の開墾も出来るし、雇人の使用は勿論必要でない。

肥料も当地方では岩村町内の下肥、山野の刈草等の労力のみで充分自給できる。また政府の米の買入価格が問題となるのも、その生産費の七〇%までが労力費であることによるのも周知のことである。

また第二審判決(第二葉裏五行目)において

成立に争のない乙第六号証乙第七号証に徴すれば、控訴人はその勤務時間外に充分農業を営む余暇がある。

と認定したが、前記乙第六、七号証による勤務状態は一般の公務員と何等相違なく、賜暇理由には冠婚葬祭もあれば身体の故障もあるのである。

もし一般公務員が勤務の余暇に充分他の事業をなすの余暇と権利を有するものとせば、現行公務員法は単なる空文と化し、公務員の給与も他の事業所得も加味して算定されなければならないと共に、裁判官諸氏並に被上告人及上告人と立場を同じくする税務職員とても当然他の事業を経営し、これに対する納税の義務を負わなければならないわけであるが、この点について表明乃至立証と認むべきものは何一つ見当らない。

また上告人は単なる郵政事務官であつて、大蔵事務官、法務事務官とは身分が違うというのであればその理由が説明されなければならない。

なお被上告人の陳述(準備書面(第二)第四葉裏十一行目)に

扶養に対する道義的見地から原告の農業を手助けしていた。

としているが、「扶養に対して事業に従事する道義」が一般公務員の同居家族に課せられていて、その所得が「扶養者に帰属する」との陳述がそのまま判決理由に承認されていると認められるが、かかる見解は憲法及民法をも否認することとなる。

原判決はもはや合法か不合法かの争いでなく、法規はあるのか、ないのか、の問題となる今現在の社会には法規は通用しない、憲法民法は飾物であると断定すれば上告人の冒頭指摘の如く無軌道だからである。

しかし法規は守るべきであり、行政権や裁判権は法規によつて公正に運営せられるべきであるとの見地から上告理由を陳述することにする。

二、一、二審判決において違背する憲法その他の法令の表示及その条文又は大意

一、日本国憲法(昭和二十一年公布)

第二十九条 財産権はこれを侵してはならない。

第三十条 国民は法律の定めるところにより納税の義務を負う。

第十三条 すべて国民は個人として尊重せられ、立法並に国政の上で最大の尊重を必要とする。(大意)

第十四条 すべて国民は法の下に平等で社会的経済的に左右されない。(大意)

第十八条 何人もいかなる奴隷的拘束も意に反する苦役にも服させられない。(大意)

第二十二条 何人も居住移転職業選択の自由を有す。(大意)

第二十七条 すべて国民は勤労の権利を有し義務を負う。

第九十八条 この憲法は国の最高法規であつて、この条規に反する法律命令詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部はその効力を有しない。

二、所得税法(昭和二十二年法律第二十七号)

第一条 この法律の施行地に住所を有し又は一年以上居所を有する個人はこの法律により所得税を納める義務がある。

第三条の二 (実質課税の原則)資産または事業から生ずる収益の法律上帰属すると認められるものが、単なる名義人であつて、当該収益を享受せず、その者以外のものが当該収益を享受する場合においては、所得税は、その収益を享受するものに対してこれを課するものとする。

第八条 (扶養親族の定義)この法律において扶養親族とは、納税義務者と生計を一にする配偶者その他の親族で、第九条の三の規定により(中略)所得の金額の合計が四万円(現行四万五千円)以下であるものをいう。(後略)

第十一条の二 (親族が事業に従事する場合の所得の計算及専従者控除)

納税義務者と生計を一にする配偶そ者の他の親族が当該納税義務者の経営する事業から所得をうける場合においては、当該所得の収入金額に相当する金額は当該納税義務者の事業所得の金額の計算上必要な経費に算入せず、当該所得の金額の計算上必要な経費に算入すべき金額は当該納税義務者の所得の金額の計算上必要な経費に算入するものとする。この場合において当該親族の所得の金額の計算については、当該事業から受けた所得の金額及び当該所得の金額の計算上必要な経費に算入すべき金額はいずれもないものとみなす。

第四十四条 (確定申告に対する更正及び決定)

第一、二項省略

政府は確定申告書の提出をなす義務があると認められるものが、当該申告書を提出しなかつた場合においては、政府の調査により第二十六条第三項第一号乃至第三号、第六号乃至第八号第十一号及び第十二号に規定する事項の決定をなす。

三、所得税法施行規則第四条の四

法第七条に規定する農業所得は米麦その他農作物の生産温室その他の施設を用うる園芸作物の栽培、蚕、蚕種の生産、またはそれ等の加工、家畜家きんの飼育等の事業から生ずる所得とする。(大意)

四、昭和二十八年八月改正所得税法の取扱について(昭和二九、一国税庁長官通達)

九、法第三条の二の規定は所得の帰属又は種類等につき、名義又は形引と、その実質とが異る場合には、その名義又は形式にかかわらず、実質にしたがつて課税するといういわゆる実質課税の原則を資産又は事業から生ずる所得の帰属者について、明らかにした宣言的規定であるから留意する。

十一、(収益の法律上帰属すると認められる者の意義)

収益の法律上帰属すると認められる者とは、所有権その他財産権の名義人となり、又は事業の名義人となつている者等通常であれば、その者が当該財産又は事業から生ずる収益と享受する者であると認められるものをいうのであるから留意する。

十二、(名義者以外の者が収益を享受するの意義及び事例)

資産又は事業から生ずる収益を享受しないで他の者が享受するとは、財産権者であり又は事業の名義人となつている者等通常であればその財産又は事業から生ずる収益を享受すると認められるものが、その収益を享受しないで、その者以外の者が当該収益を直接取得しているものをいうのであつて、たとえば次に掲げるような場合である。

一、二、三、省略

四、他人(法人を含む)名義で事業を行つている者がその事業から収益を取得している場合。

五、所得税に関する基本通達(昭和二六、一国所一ノ一)

三二四、(第十一条の二関係)事業を経営する納税義務者とは実質的、に事業の中心になつている人をいうのであるが、生計を一にする親族の中誰が、事業の中心となつているか明らかでない場合においては、一五八から一六〇までに準じて、これを判定するものとする。

一五八、事業の所得が何人であるかについては、必ずしも事業の用に供する資産の所有権者、若くは貸借権者免許可事業の免許可名義若はその他の取引名義者、当該事業に従事する形式等にとらわれることなく、実質的に当該事業を経営しているとみとめられるものが何人であるかによりこれを判定するものとする。

この場合において、その者が何人であるか不明であるときは生計を主宰していると認められるものがその者であるとする。

(後略)

六、民法(明治二十九年法律第八九号、同三十一年法律第九号)

第八十九条天然果実はその元物より分離するときに之を収受する権利を有する者に属す。

第三百二十四条 農工業労役の先取特権は農業の労役については最後の一年間(中略)其労役により生じたる天然果実又は製作物の上に存在す。

第七百三条 法律上の理由なくして、他人の財産又は労役に因り利益をうけこれがために他人に損害を及ぼした者はその利益の存する限度に於てこれを返還する義務を負う。

三法令に違背する理由

一、原判決は憲法第二十九条及第三十条に違背する。

本件は所得税の課税についての争であるから所得税法(以下単に税法という)によるべきは勿論であるが、その税法とても根源を憲法に発し、その第三十条に「すべて国民は法律の定めるところにより納税の義務を負う」と規定され、課税はすべて税法によるべきのところ、被上告人の主張並に第二審判決が引用する原審判決理由にある課税の方法は次項以下陳述の如く税法の解釈を誤り憲法第三十条に違背すると共にかかる不法な判決によつて不当納税を強要することは財産権の侵害として憲法第二十九条に反する。

二、原判決は税法第三条の二に違背する。

被上告人が当初の決定処分に当り唯一の根拠と主張する所得税法第三条の二(甲第二号証参照)によれば、名義人と実質所得者と別人の場合には実質所得者に課税するというのであつて、単なる名義人には課税しないというのであるが、本件争点となつた上告人と妹はるゑとを農業経営について比較するに、上告人は耕地の所有者、協同組合の名義人、借入金の名義人で(乙第三号証の二、三、四)郵便局に勤務し年間三十日位農業に従事する者、一方上告人の妹はるゑは何等名義人でなく且資産の所有者でもないが、年間農業に二百日以上専念従事していた点については当事者間に争がないから、妹はるゑが「単なる名義人であつて課税しない」との条項は適用されない。従つて名義人ではないが年間農業に従事した当該農業所得の実質所得者であるから、同人に課税すべきだとする上告人の主張の正当性につき原審控訴審は認定を誤つた。

妹はるゑは上告人と起居生計を共にするも、他に生計を営むべき収入の途なく当然農業収益を享受しこれにより生活していたことは被上告人も第三準備書面二葉表十行目以下において認めており、この点判決事実摘示(一審判決分第四葉表)にも明らかであり、上告人は固り給与所得その他にて二十万円以上の所得を有するので、妹の所得を以て生活したというべきでなく、税法第三条の二により上告人に課税したことを妥当とする原判決は失当たるを免れない。

また上告人が税法第三条の二にいう単なる名義人でなく、実際にも従事していたから名義人に課税する即ち原則的には名義人課税であると主張するなら、昭和二十八年八月改正所得税法の取扱について(昭和二九、国所一ノ一、国税庁長官通達)九、を無視したことになる。

即ち同項には名義又は形式にかかわらず、実質にしたがつて課税すると説明されているのであつて、この点につき前に通達十一(収益の法律上帰属すると認められる者の意義)同十二、(名義者以外の者が収受を享受するの意義及実例)の四、所得税に関する基本通達(以下単に通達と称する)一五八に詳細規定されていることは上告人が既に第二準備書面(第四葉表一行目から第七葉表五行目)において具体的に陳述したところであつて、以上に徴すれば判決理由(一審判決第八葉裏五行目二審判決第二葉裏三行目)の組合の利用、賃金等が上告人の名義であることによつて、農業の主宰者を確認したことは「名義人であることにより課税したと何等実質的に相違せず明らかに税法第三条の二及これに伴う二十八年改正税法についての通達九、十一、十二、基本通達一五八に背馳する。

この点については上告人は第四準備書面(第一葉表十二、十三行目)第一号証乃至第五号証は原告の利益に援用すると述べた通りである。

次に判決理由(一審判決文第九葉七行目)に

被告の本件に関する実質所得者の判定は正当である。

と認定支持されている被上告人の陳述(準備書面第三第五葉裏七行目)に

本件訴の場合は、まさに通達一五九に該当する。

として、通達一五八を無視し、専ら通達一五九にいう

支配的影郷力を有する者が何人であるかにより判定するものとする。

の字句を曲解または拡充解釈して

当該農業所得は原告に帰属するものと認めて為した本件決定処分は基本通達一五九前段に規定されている特定な具体的事実に対する場合の所得者の判定の原則に適合したものであつて、決して当該規定に違背したものではない。(同前第六葉表二行目より六行目)と主張しているが、勿論通達一五九は法的強制力を持たないものであるから、その基となつた所得税法に求めなければならぬが、(第二準備書面第二葉表十一行目に指摘済)税法第三条の二には同居親族の場合は云々の特別の規定は定められていないから当然その根拠を税法第十一条の二に求めなければならない。(第二準備書面第四葉裏三行目から第五葉表十行目)

三、原判決は税法第十一条の二に違背する。

本法の要旨は

納税義務者の経営する事業から受ける同居親族の所得は納税義務者の所得とみなす。

というのであつて、本条にいう納税義務者とは当然税法第三条の二にいう「名義や形式にとらわれない実質所得者」を指し、この点については通達三二四に

事業を経営する納税義務者とは実質的に事業の中心人物をいうのであるが、不明の場合は一五八から一六〇に準じて判定する。と定められているから、当然通達一五八を適用しなければならないのに被上告人の所得者判定についての主張及び判決理由の所得者認定の根拠はすべて一五八に違背するものであることは上告人が第二準備書面(第六葉表面)に陳述した通りであるが、而して通達一五九によれば支

配的影響力を有すると認められるもの(納税義務者)が不明の場合は生計を主宰している者とする。

と定められていることは逆説すれば生計を主宰していることは納税義務者の判定の資料にはならないというのと同じであつて、判決理由(一審判決文第八葉表四行目から八行目)に

生計の主宰者が事業の主宰をもなしているを認める。

との判断は通達一五九に違背することは自明の理である。

即ち実質所得の帰属については民法憲法等に準拠すべきであり(第二準備書面第三葉表三行目以下)税法第十一条の二による納税義務者の判定については、農業経営の実体、事業に従事した度合、または従事なし得る能力等を勘案して判定すべきである。(前同準備書面第七葉表五行目より第十葉表二行目)

上告人が公務の余暇に農業経営に従事したことに関しては

一上告人が公務の余暇に農業に従事した実際と

二妹はるゑが年間農業に専念従事したのと、そのいずれが実質的に営農の主体をなしたかを比較判定しなければならないのであつて、かかる上告人の主張を「原告の見解は独自のものであつて採用できない」と排斥し「控訴人は勤務時間外に農業経営の余暇があるから農業経営の主宰者である(二審判決文第二葉裏六行目以下)とする判決理由は税法第十一条の二に全面的に違背するばかりでなく。

四、原判決は税法第四十四条に違背するものである。

即ち当初被上告人のなした決定処分は当然税法第四十四条第三項によるべきであるが、同項によれば

政府の調査したる所により第二十六条(中略)の決定をなす。

と定められているが、これは旧所得税法(大正九年法律第十一号)第二十六条及同第五十一条に「調査委員会の調査により政府において決定をなす」調査委員会不成立その他の場合は政府において専行決定する(大意)(現代法学全集第二十三巻所得税巻昭和三年当時による)とて第一義の決定権が税務署長に存したのとは画期的に相違するものである。現行税法では第一義所得額は実質に基いて、納税義務者が申告をなす(税法第二十六条)のであり、これに対し税務署長は事実又は実体を調査し、当該申告が事実と相違するの立証があつて初めて更正又は決定処分をなし得るものと解すべきである。

即ち本件係争の根本である無申告加算税二千五百円は当該事実に反することの立証があつて初めて合法といえるものであり、前記調査のためには税務職員に諮問権帳簿その他を調査する権利、三年間の日子(追徴)等が与えられているのであつて、かかる調査をなさず、これに対する上告人の釈明要求(第四準備書面第五葉表八行目以下)(第三準備書面)をも全面的に拒否の上、原告が生計主宰者であること(一審判決文第八葉表二行目)控訴人が各種経営上の名義人であること(二審判決文第二葉裏一行目より四行目)によつて上告人が事業の主宰者であることを認定した原判決は明らかに税法第三条の二、同第十一条の二と共に税法第四十四条第三項に違背する。

五、原判決は所得の帰属について憲法及民法に違背する。

原審及控訴審判決理由中所得の帰属についての判断は前記税法第三条の二及び第十一条の二に反するのみか左記三点は憲法及民法に反する。

一、一審判決等は原告が家族全員を扶養すべき地位にあるとしているが、かかる地位は旧民法の戸主権と共に消滅し現行民法では互に扶養する義務(民法第七三〇条)として家族は平等の立場におかれている。

二、家族の生計を支える事業はすべて行生の主宰者がその事業をも主宰している(一審判決八葉表四行目以下)との判断は基本的人権の無視で憲法第十三条第十四条第十八条第二十二条第二十七条に反する。

三、事業所得はすべて事業の主宰者に帰属する(同判決第九葉表四行目)も民法第八十九条第三百二十四条第七百三条に反する。

右のとおり上告理由書を提出します。

以上

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